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ことばひろい

機関誌より『ことばひろい』を掲載しました。

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第30回:『 この先もカナンに… 』
シャローム・ウィズ所長 山封q夫

2020年11月15日発行(機関誌132号)

この先もカナンに…

Aさんから、「(自分は)この先もカナンにいられますか?」と突然に聞かれたことがある。びっくりしたが、「大丈夫ですよ」と答えた。それにしても、どうして急にこんなことを聞いたの、と尋ねると、「お父さんが仕事をしていて怪我をして、お母さんも体調が良くなくて…。」とのこと。そんな両親を見ていて、自分の将来にまで不安を抱いての言葉のようであった。

Aさんは、カナンの園のグループホームに住み、日中もカナンの園の事業所に通っているので、家庭状況の変化があっても、ご本人自身は今の生活を続けられる(つまりカナンの園にいられる)。だから、大丈夫と断言できる反面、グループホームに住んでいないで自宅から通っている方だったら、「大丈夫です」と答えるだけの具体的な根拠を持っているだろうか、と考えさせられた。

昨年の秋、カナンの園全体保護者会の研修会で、講師として先駆的な取り組みをしているある法人の方をお招きした。講演で、「一人の利用者さんの健康状態が日々変化し、最後まで支援することができなかったことをきっかけとし、どんな方でも受け入れることができる医療提携のあるグループホームを作った。」というお話を伺った。そのグループホームがある建物は、ビルになっていて、他の階では日中活動の事業も行っており、一つのビルの中で24時間の支援ができるようになっている、という。その他、この法人では障がいのある方ひとり一人が、住みなれた地域で自分らしく暮らすために必要なサービスを、制度に捉われず、独自の取り組みで行っている。講演をお聞きしている何人かの親御さんは涙して聞いていた。医療提携のあるグループホームは経営度外視の独自の取り組みであり、家族の方々が中心となって創立された法人ならでは、と思わされた。

カナンの園でも、「カナンの園3本の柱」のひとつに「施設にあった人をつくるのではなく、その人の成長に応じた環境づくりをする」と掲げ、事業を進めてきた。利用者さんたちの‘成長に応じて’事業を拡げてきたが、近年は、法制度の変化を優先させざるを得なかったり、職員体制を十分に整えられないことも多い。そして、これからは、‘成長に応じて’ではなく、‘状況に応じて’の視点がより重要になってきているように思う。自分たちにできることは限られているが、その中で、やらなければならないことを見極めたいと思う。

カナンの園の新職員研修で、プログラムの一つに「親の方々の話を聴く」というものを必ず入れている。ある年、私が担当所長として参加したことがあった。3名の親御さんからお子さんが生まれたときの喜び、我が子に障がいがあることが分かった時の不安や葛藤、成長する中で味わった苦労や喜びなどを若い職員と一緒に伺った。カナンの園を利用するようになってからは、私たち職員も時を重ねながら味わってきた日々のやりとりを振り返りながら、自分たちの歩みを振り返る機会にもなった。

今年からシャローム・ウィズの所長になり、半年が過ぎた。前期のモニタリングと後期の支援計画を進める上で三者面談を行っているが、その報告の中で、ある親御さんから「うちの子はこの先も、カナンでみていただけるのだろうか?」という話しがあった、と聞いた。

福祉は、利用者さんひとり一人の願いに耳を傾け、必要を感じ、それを叶えるためのヒト・モノ・カネを準備することだと思う。今後策定することとなっている第8次将来構想の立案では、そのこと抜きには語れない。「この先もカナンの園に…」という声は、決して一部の方の声ではないと思う。これまでもご本人の病気や体調の変化などで、医療的ケアが十分に受けられる施設などへ移られた方がおられるが、その中には、カナンの園に居続けられる環境が用意されていたら、と思われた方がいたのではないか、と思えてならない。一人ひとりの声に耳を傾け、それをどのように具現化していくか、皆で考えていきたい。

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