トップページ > ことばひろい > ことばひろい 第29回

ことばひろい

機関誌より『ことばひろい』を掲載しました。

■ 第2期







■ 第1期


第29回:『 おうちに、かえろう。 』
奥中山学園 主任・児童発達支援管理責任者 服部美佳

2020年7月15日発行(機関誌131号)

おうちに、かえろう。

「ただいま!」学校での活動を終えた子どもたちが放課後等デイサービスゆいまぁるに帰って来ます。自宅に帰るまでの時間をゆいまぁるで過ごします。「ただいま」の声に「おかえりなさい」と返しながら、今日はどんな様子かな、と子どもたちの表情を見て出迎えています。

私は今年度から奥中山学園のゆいまぁるで、児童発達支援管理責任者として働いています。奥中山学園は私がカナンの園に就職し、最初に配属となった職場です。当時は今の在宅支援のような形はなく、特別支援学校の小学部への入学に合せて6歳から入園する子もいました。学園では子どもたちと一緒に遊んだり、食事の仕方、歯磨きの仕方、お風呂の入り方等、日常の営み一つひとつを大切にして生活を送っていました。

子どもたちと寝食を共にする生活は、子どもの成長や可愛さを感じられ楽しい日々でした。言葉で自分の気持ちを伝えることができず、思いが伝わらないと怒って表現していた子と文字やことばの練習をしました。その子が初めて自分の伝えたい事を単語で話してくれた時の喜びは今でも鮮明に覚えています。また、電車で帰宅できるようにさせたいと、電車の乗り方に加えて、もしものために電話のかけ方も練習しました。初めて子どもを一人で電車に乗せた時はとても心配な思いになりましたが、その子から「お家に着きました!」と自信に満ちた声で電話が入った時の安堵した思いも忘れられません。

そのような子どもたちとの日々の中、時には複雑な思いを持つこともありました。担当していた子が不安な出来事が起こると「おうち、かえろう!おうち、かえろう!」と繰り替えし訴え、泣き、思いをぶつけることがありました。泣きながらお家に帰りたいと訴える姿に、その不安を取り除いてあげることも、じゃあお家に帰ろう、と慰めることもできず、私はただ側にいる事しかできませんでした。週末を家庭で過ごし学園に戻った子どもたちは、お母さんと離れがたく、ご家族も後ろ髪を引かれる思いでお子さんを学園に託している姿がありました。学園は子どもたちが少しでも安心して生活する場をめざしていましたが、拠り所となる家族がいるような、心から安らぎ暮らせる場ではないのかもしれないと感じました。家庭から帰園した子どもたちを「おかえりなさい」と迎えていましたが、その言葉が正しいのかわかりませんでした。

それから、私は成人の施設へ異動となり、自分の子育ての経験も重ねながら、昨年度まで数年間は相談支援事業所むつびで相談支援専門員として働いてきました。私が以前学園で一緒に生活した方たちは成人となり、数名と約20年ぶりに関わる機会が与えられました。成人となった彼らは、それぞれの就労先へ通い、家庭やGH等で暮らしていました。彼らと話しながら、学園で一緒に生活していた時のことが思い起こされ、学園での生活が現在の彼らにどのような形で心に残っているのか考えさせられました。もし20年前、自宅から学校へ通う支援や自分の住んでいる地域に家族の迎えを待って下校後を過ごせる場所があったら、あの時の「おうちに、かえろう!」と泣いて不安を伝える姿はなかったかもしれない…。今、ゆいまぁるで子どもたちを「おかえりなさい」と迎え、夕方には「お家に帰ろう」と家庭へ送り出しながら、あの頃学園で一緒に過ごした彼らが子どもの時期に必要なことを教えてくれ、在宅支援ゆいまぁるの在り方に繋がっていることを感じています。

子どもと家族の絆、安心できる場、ご家族と共に子どもの成長を見守っていくことなどを問い続けるゆいまぁるでありたいと思っています。

ページトップ