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ことばひろい

機関誌より『ことばひろい』を掲載しました。

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第23回:『 「ただいま」「おかえり」 』
奥中山学園 阿部和佳子

2018年7月15日発行(機関誌125号)

「ただいま」「おかえり」

忘れられない場面があります。二十数年前、奥中山学園で職員としてお世話になって2年目の入園式の日でした。入園の行事が終わり、親御さん方が帰られる時、新入園の子どものお兄さんとお母さんが玄関に向かって歩いていました。お兄さんは、前を歩くお母さんの背中に向かって泣きながら叫びます。「どうして?どうして〇〇だけ置いていくの?一緒に連れて帰ろう!」お母さんは、唇を結んで小さく「仕方ないんだ…」とつぶやき、なだめながら振り返らずに玄関から出て行ったのです。当時は、小学校入学と同時に入所する子どもがほとんどでした。私は、子どもたちと一緒に笑ったり、いろんなことに取り組んだりする毎日を嬉しく楽しく思っている毎日でした。親御さん方は、いつでも笑顔やユーモアで私たちを支えてくださっていたので、そんな悲しみやつらさを目の当たりにしたのは初めてでした。その親御さんも次にお会いした時には、笑顔で私たち職員に「いつもありがとうございます」と言葉をかけてくださいました。年齢が下の職員に大切な子どもを預けることは不安だったことでしょう。それでも私たちを支えてくださるご家族の皆さんに、申し訳なく、ありがたく思っていました。お預かりしている大切な子どもたちに、そして支えてくださるご家族の皆さんに対して、何が出来るだろうか。その出来事をきっかけに楽しいだけではいけないと、考えるようになりました。

当時の勤務は交代勤務で、朝と夜の職員が異なることが多かったです。家庭になることは決してできないけれど、子どもたちが帰りたいと思っている「おうち」に近い暮らしについて考えるようになりました。奥中山学園全体でも小舎制について語られていて、様々な視点から話し合いや実践が行われていました。

ある日、担当していた子どもに添い寝をしていると「帰るの?」と、ポツリと言われたのです。家に帰りたくても帰れない子どもに「帰る」とは言えず、言葉に迷っていると、「帰っていいよ…」と静かに言い、私に背中を向けたのです。子どもたちの悲しみややりきれなさ、あきらめの気持ちを感じ、ショックを感じたことを今も覚えています。私は、「おはよう」「いってきます」「いってらっしゃい」と朝にあいさつをした職員が「おかえり」と出迎える暮らし、「おやすみ」といった職員が朝に「おはよう」と声をかける暮らしをしたいと考えました。そんな当たり前のやり取りの繰り返しの中に、どっしりと心を落ち着け安心して暮らせる居場所が出来るように思いました。子どもたちが求める暮らしはどんなものか、当たり前のことが温かくととのえられることの大切さを、子どもたち、そして親御さん方に教えていただきました。

その後、一旦、カナンの園からは離れ子育ての時間をいただいていましたが、縁あって数年前に再び奥中山学園でお世話になっています。私が大人になる時に、大切な時間を子どもたちと過ごした奥中山学園は、私の人として立つ時の原点です。いつか、またお世話になりたいとずっと願っていました。今は、入所ではなく、通所のゆいまぁるで午前の発達支援や下校後の放課後等デイサービスで子どもたちと過ごしています。入所の生活ではないので、安心した“暮らし”とは離れますが、家庭に帰るまでの時間を安心して過ごせる“居場所”であればいいなと思っています。学校でたくさん頑張ってきた子どもたちが、ゆっくりと気持ちを整えて、ふっと体と気持ちをリラックスできる場所でありたいです。短い時間の中ではありますが、言葉で、目で、表情で、体温で、距離で、同じ場所にいることで、温かい雰囲気を保つことで、あなたのことを思っているよ、大切に思っているよと伝えたいと思っています。温かいたたずまいの中で、将来につながる今を、じっくり丁寧に積み重ねたいと思っています。

今日も、「ただいま!」と元気な笑顔で帰ってくる子とどもたちを「おかえり」と迎えて、一緒の時間を過ごすことができることを楽しみにしています。

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