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ことばひろい

機関誌より『ことばひろい』を掲載しました。

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第20回:『 佐々木さん、過保護過ぎ! 』
奥中山学園主任 佐々木知子

2017年7月15日発行(機関誌122号)

佐々木さん、過保護過ぎ!

私が現在担当する奥中山学園のにじ寮は、私も含め6人で生活しています(私以外は思春期・青年期真っ只中の5人です)。
彼らと一緒に過ごしていると多くのことに気づかされ、教えられます。

T君は、この春、三愛学舎の1年生に入学しました。 末っ子で、泣き虫のT君は、お母さんの病気をきっかけに、小学4年生の時から奥中山学園で生活しており、私はその時から一緒に過ごさせてもらってきましたので、7年目のつきあいとなります。
T君の話しことばは、一緒に過ごしている人でないと聞き取れなかったりするのですが、生活力は人一倍あり、周りを察して気遣い、みんなに元気を与えてくれます。

T君はお兄さん的な存在の人が好きです。
特に同じにじ寮で、一つ年上のS君のことが大好きです。
S君の様子をみながら、自分のメモ用紙を持って近寄っていき、手を取り、話しかけたりします。
自分の好きなアニメのタイトルについて書かれた紙を渡し、メモ用紙に書いてほしい、と頼むのです。
S君もT君が何をして欲しいかが分かり、笑いながら仕方ないな?と言いつつT君のペースに合わせてくれることもしばしばです。

S君は、三愛学舎入学と同時に入園し、にじ寮での生活は2年目です。
感受性が強く、繊細で人を引き付ける魅力があり、何よりも物事の本質を見抜く力があります。
彼の発することばには確信を突いた鋭さと、相手を大切に思う想いが、いつも含まれており、私もハッとさせられることがあります。

T君の三愛学舎入学を控えたこの春、1年先輩のS君に、三愛でT君が、もし何か困ったことがあって泣いていたり、誰かにちょっかいをかけられていたら、 T君はうまく話せないからT君のこと、助けてあげてねとお願いしたことがあります。
心のやさしく、思いやりのあるS君ですから、
 「わかった、ボクがちゃんと助けてあげるから心配しなくていいよ」
と答えてくれると思っていました。
ところが、S君の答えは違いました。
 「佐々木さん、過保護過ぎ! T君はT君で困っているとか、嫌だとか、やめて欲しいとか言えるようにならないとだめでしょ。高校生になるんだから。 そんなこと自分で言えるようになんないといけないし、言えるって。 なんで俺がお世話しなきゃなんないの?」
と。

S君のことばに、私の中でT君は、小さい頃のままの姿でいたこと、そして、T君は話せないという決めつけの中にいたことに気付かせてもらい、自分の稚拙さを情けなく感じたのでした。
S君は、6年一緒に過ごしてきた私よりも、T君の持っている力とこれからの可能性をしっかりと感じとっていたようです。

“人の成長は、人との出会いと出会い直しで行われる”
という文を目にしたことがあります。
<人の成長>を、いつの間にか<子どもの成長>と捉えていた私ですが、こういう機会一つひとつを重ねながら、 その時、その時、出会わせてもらった一人ひとりから問いを投げかけられ、自分自身が成長させてもらっていることを感じます。

T君が三愛学舎に入学して3カ月余りが過ぎました。
毎日が楽しくて仕方ないらしく、いつもいい表情で帰ってきます。
そして、夕食を囲みながらT君に学校の様子を尋ねると、S君や他の人たちもT君の様子をさりげなく見守ってくれているようで、一緒の活動の様子などを教えてくれます。
そんな会話ができるのも、彼らの関係性ならではだと思うのです。

T君に限らず一人ひとりの可能性を信じて、背中を押し出し、それぞれの人生の一端を一緒に過ごさせてもらい、共に成長していけたらと思います。
何よりもS君に教えてもらったように過保護にならずに…。

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