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ことばひろい

機関誌より『ことばひろい』を掲載しました。

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第16回:『 ありがとうございました 』
三愛学舎副校長 岩崎崇

2016年3月15日発行(機関誌118号)

ありがとうございました
ありがとうございました

私が三愛学舎で働き始めたのは、1999年4月のことです。 その年、本科に配属され、日々、生徒の皆さんと一緒にランニングや作業学習を行い、汗を流しました。 体力だけは自信があったので楽しかったのですが、苦労したのは調理や裁縫です。 不器用で、これまでの生活の中でも経験が少なかったため、調理から縫い物まで、 なんでも行わなければならない本科の授業は、失敗も多くあり大変でした。 それでも、生活に即し、身体全身を使う三愛学舎の教育内容は、魅力的で充実感がありました。 生徒の皆さんと一緒に活動しながら、共に学び、育ててもらいながら現在に至ります。

働き始めた当初から印象に残る行事であり、私自身も大切にしている行事の一つに、 成人を祝う会があります。 三愛学舎は、本科3年間、専攻科2年間の計5年間の教育を行っており、専攻科2年生の卒業学年の時にちょうど20歳を迎えます。 青年期の大切な期間、楽しいこと、大変なことを共有し、励まし合った仲間と迎える会は格別です。 今年度、私は司会者として成人を祝う会に臨みました。 かつて3年間、本科の時に担任させていただいた学年だったため、感慨深いものがありました。

当日、専攻科2年生の13名の成人者は、新調したスーツや素敵な着物姿で晴れ舞台を迎えました。 一人ひとりの20年間の成長をスライドショーで鑑賞し、その後、成人の誓いと保護者からのメッセージと続きます。 どちらからも「ありがとうございました」のことばが多く聞かれました。 日頃から聞き慣れたことばではありますが、この日は重みが違いました。

成人者からは「お父さん、お母さん、これまで育ててくれて、ありがとうございました」、 親御さんからは「私の方が育ててもらいました。ありがとう」など、お互いに感謝のことばを述べる場面があり感動的でした。 そんな中、当時担任した生徒から「岩崎先生、本科の時はお世話になりました。ありがとうございました」と挨拶がありました。 予期せぬ嬉しいことばでした。

5年前の東日本大震災から1カ月も経たないうちに入学式を迎え、不安と期待の中で学校生活が始まったこと。 クラス菜園で収穫した大豆を使って味噌や納豆を作って食べたこと。 時にはけんかもあったけれど、次第にお互いを認め合えるようになったこと。 職場実習の様子を嬉しそうに報告してくれたこと。たくさんの思い出が一気によみがえってきます。 様々な経験を積むことで自信を持ち、悩みながらも成長していった姿を思い出し、感激しました。

司会者なので進行に徹しなければなりませんでしたが、涙があふれ、まともに前を見ることができませんでした。 その後も、趣向を凝らしたプログラムが進み、笑いあり、感動ありの心のこもった祝会でした。

私が成人式を迎えたのはちょうど20年前です。 今回の成人者のように具体的な決意を抱いていたか、両親や支えてもらった周囲の方々に感謝の気持ちを伝えていたかというと、 不十分だったと思います。 三愛学舎での日々の生活の中で、生徒の皆さんや保護者の皆さんから気づかされることや学ぶことが多く、自分の生き方やことばの重みを考えるようになりました。 また、恥ずかしながら、この歳になり改めて自分の両親にも感謝の気持ちを持ちました。

三愛学舎で働かせていただき、皆さんと出会えたこと、人生の節目に立ち合わせていただいたことに感謝をしています。 「ありがとうございました」。このひとことをかみしめ、感謝の気持ちを大切にしながら、 これからも生徒の皆さんと一緒に生き方を考え、学び合い、学校生活を送りたいと思います。

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