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ことばひろい

機関誌より『ことばひろい』を掲載しました。

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第12回:『 「運」と「縁」 』
となんカナン施設長 高橋正彦

2014年11月15日発行(機関誌114号)

「運」と「縁」

2010年4月2日、となんカナン事業所の開所式、利用者20名でのスタートでした。私自身も4月1日に辞令を頂き、50歳を目前に採用されました。 利用者さんの新しい環境に身を置くドキドキ感、期待感、そして不安感と緊張が入り混じった表情は、おそらく私自身の鏡だったと思います。

それから少し日が過ぎ、4月27日にTさんが利用を開始しました。特別支援学校高等部を3月に卒業し、少し遅れての利用開始でした。 朝礼での挨拶はもちろん、それ以前に朝礼に出るのも抵抗があり、集団での場面にいるのが我慢できない、他人から自分がどう見られても関係ないような身なり、服装でした。 そんな彼は就労移行支援事業を利用することとなりました。同事業は2年間の期間が設けられており、その間に就労訓練、社会人としてのルール、マナーを身に付け、企業実習を行い、最終的に一般就労を目指すサービスです。 当時私は就労支援員でしたが、その仕事がどういうものかまだまだ理解できていませんでした。直接の担当ではないこともあり、作業中の接点もあまりなく、しばらくじっくりと話す機会はありませんでした。

1カ月くらいしたある日、Tさんが突然、「高橋さん、矢沢永吉が好きなんですか?」と聞いてきました。 そうだ、と答えると、「自分のおじさんがファンでCDをよく聞かされる。となんカナンにも好きな職員がいると教えたら喜んで盛り上がった」と話してくれました。 これはシメタと思い、矢沢永吉の生い立ちから始まり、サクセスストーリーを話して聞かせました。私の話を聞いていた彼は「自分には運がない、お金がない」とポツリと言いました。 「『運』は引き寄せるもの、目標に向かっての一生懸命の先にあるものだよ、努力しない人には『運』は来ない、自分だってこれまで良かったことばかりじゃない、失敗の方が多かったけど、 その失敗を糧にして50歳にしてやっと、カナンの園にたどり着いた」と話しました。その時のTさんは苦笑いした表情で聞いていました。 そんなやりとりの中で、彼の目標を聞くと、「就職すること」と言い切りました。「18歳くらいの時から自分の欲しいもの、やりたいことをするためには一般就労してお金を稼ぐしかないと思っていた」と打ち明けてくれました。 芝生の横での立ち話でしたが、私も18歳くらいの時同じようなことを思っていた話をしたりしました。

そして、何度か実習を重ね、高校時代に実習でお世話になったことのある会社で再度実習し、成長が認められ採用になりました。 1年前は、自動車免許が欲しいとか、趣味に使うお金を稼ぐ、というような思いが強かったのが、最近の彼からは自立とか、親が安心してくれる、というような言動が出てきています。 また、取材協力の話があった時は本人にどう言ったらいいか不安でしたが、ケロっとして、となんカナンの宣伝になるんだよね?と、カナンの園のためになら出てもいいと言ってくれました。 在籍中は写真すら断固拒否の人だったのに…。会社での周りの方のサポートもTさんの成長に大きなプラスになっていると思います。 自分しか見えていない自分から、努力を重ねながら「運」をつかみ、自分だけでつかんだ「運」ではなく、いろいろな「縁」に導かれ、少しずつ誰かのためにとか、 何かの役に立つことに喜びを感じることは、事の大小ではなく、改めて大切にしていきたいと、Tさんとの関わりを通して思うこの頃です。

Tさんは今、新しい密かな夢に向かって歩もうとしています。事業所は離れましたが、これからも一緒に歩んでいきたいと思います。

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