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ことばひろい

機関誌より『ことばひろい』を掲載しました。

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第07回:『 一生にただ一度の時間〜一期いちご一会いちえ 』
生活介護事業所 シャローム 副施設長・サービス管理責任者 戸田清志

2013年3月15日発行(機関誌109号)

一生にただ一度の時間〜一期一会(いちごいちえ)

カナンの園で働いていると、目の前の方との日々のやり取りの中で、その方の言いたくても言えないでいた深い孤独と向き合う瞬間があります。

Mさんは、今年になって特に関わりが深くなった方の一人です。 落ち着いて作業に向かえない、目的もなく歩き出す、突然走り出す、大声を上げる、そんな毎日を送っていました。 私は、「それが本当にあなたのやりたいことなの?本当の言葉を聞かせてください!間違ったことがあったら謝りますから」と毎日心の中でつぶやきながら、 決して怒らず平静を保ちながら一緒に過ごすことを大切にしてきました。

ある時、二人きりになると抱きついてきたり足をからませて離そうとしないことがありました。 それがMさんからの最初のメッセージだったような気がします。 調子をくずし、終わりの見えない歩きに二時間も三時間もホールを一緒に歩き続けました。 止める手立てが見つからず歩き続ける彼の表情はとても苦しそうです。 でも、彼の手が隣にいる私の手に触れ握ってくるのです。 彼のいたたまれない気持ちが汗ばんだ手のぬくもりから感じられました。 今は、大きな声を出すことも突然走り出すこともなく、落ちついて作業に向かう日々を送っています。

仲間たちを引っ張っていくリーダー的な存在だったJさんが、進行性の筋ジストロフィーで亡くなられてから三年がたちます。 カナンの歴史と共に歩まれた一人です。私の結婚式にも来て戴きよく一緒に出かけた関係です。 二〇〇〇年にシャロームが出来た頃には、病が進行し歩くことも困難になり、トイレも人の手が必要になり、話す言葉も不明瞭になっていました。 ある日忙しく飛び回る私に「いいよなぁ戸田さんは。白い服を着て、結婚して・・・」とポツリと言うのです。 私は、瞬間足が止まり涙がこぼれそうになりました。彼の言葉を受け止めきれなかったからです。

27年前成人入所更生施設で暮らしていたKさんは、コミュニケーションをとるのが困難で、 歩くことを含め多くの人の手を必要としていました。 彼の“生きがい”を見出すために、職員が一年間付きっきりで取り組んだ結果生まれたのが“みことばせんべい” でした。 当時の職員がこんな言葉を残しています「私たちは心の目を開く力がなく見える部分だけで判断してしまいます。 でも、一つ一つの小さな関わりを通して考えさせられ、教えられ、目に見えない部分への働きかけの大切なことを感じました」と。 昨年の11月末、49歳になるKさんが車イスで散歩中、付き添いの職員に腕を抱えてもらい、シャロームに立ち寄りました。 彼の目の前で、白衣を着た若い方たちがみことばせんべいの生地丸めに汗を流しています。 その後ろに佇むKさんの目には涙が溢れていました。 「Kさんありがとう、Kさんのおかげで今こうやってみんなが働けて、全国のお客さんから注文をもらえるようになりました」 と伝えると、声を押し殺すようにむせび泣いていました。

「一期一会」という言葉があります。 一生にただ一度の出会いを大切にするという意味で、出会う人とは 、必ずいつかは離れる時が来て、そしてもう二度と会えないかもしれない。 だからこの人と一緒にいられるこの時を相手を思いやり大切に過ごす、という意味です。 どのような相手でも、本当の言葉の意味を理解して、未来を予測して納得しながら一緒に過ごすことは難しいものです。 でも、“今この時をこの瞬間”を心を込めて大切に過ごすことを求め続けることは出来そうな気がします。

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