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ことばひろい

機関誌より『ことばひろい』を掲載しました。

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第05回:『 自分を生きる 』
多機能型事業所 となんカナン 副施設長 栃内恵子

2012年7月15日発行(機関誌107号)

自分を生きる

この春、退所され次のステージで生活されることになったお2人を紹介します。

46歳になるその女性は、進行性筋ジストロフィーで車イス生活をしています。 18カ月間就職にむけ就労訓練や就職活動のサポートをしてきましたが、 5月からご本人に望ましい環境設備のある施設に移行されました。

関係機関と連携しながら、就職相談会や会社面接に出向き、 不採用でも「次またがんばる!」と気丈に振舞う姿で、逆に周りを元気づける方です。 しかし職場実習の機会に恵まれても、会社玄関前の階段や、トイレの便器の高さ、 限られた移動スペースなどで実習を断念しています。 少しの改善で就労可能になりそうですが、 現実的には障がい者雇用枠の求人でも環境整備の補助金制度の活用も企業側が進んでいない現実に直面し、 次第に関係機関とのやり取りで、妥協することが多くなりました。 そしてこの3月に面接した事業所からの不採用を受けた時点で、ここまでやってだめだったのだから、一般就労は諦めます!と、 いまの施設に移行を決めたのでした。

開所から2年間利用された49歳になる男性は、もう一度自分を見つめなおしたいと言って、 この春退所してケアホームも引き払い、80代になる両親のもとに帰っていきました。

5年前の脳出血による片側上下肢機能障害、意識が戻ってから伝えたくても言葉にならず、 なんで自分がこんなこともできないのかと、死も考えたとポツリ話していました。 そんな状況下でも、ケア会議では、就労は「営業するよ」と希望し続けてきました。 しかしある時期から、20年以上サラリーマンをして頑張ってきた、 もう残り人生のんびりと無計画で楽しむのもいいかも、と一転したのです。 話を聞いていくなかで、励まされても自分に限界があるのだと、私には聴こえていました。 一度自宅で本人の想う「のんびり」を経て、また次のステップを生きて下さいと退所後の準備をすすめました。

日常で励ますことの多い私です。「諦める」ことは自分も周りに対してもかなり勇気と覚悟がいるように思います。 小さなころから、親や先生から「諦めないで頑張れ」と言われ、がんばる精神が世間では美徳とされることもあるかもしれません。 しかし2人との関わりから、そんな考え方は改め、諦めることで勇気と精神を豊かにするのだということ、 諦めることで違ったことに巡り合い、目に見えない精神的な財産を得たりすることを知りました。

「諦める」を違う言葉で表現すると、「捨てる」ということにもなります。そして変えられる物は変えて、 変えられないものは受け入れていく。お2人とも、生活でも仕事でもいろいろなものを意識的に変えようとしたり、 諦めて捨てて、前に進んできました。そのとき、悲しんだり悩んだりしたことでしょう。どうかその諦めが、 思いもよらぬすてきな展開をもたらし、そしてお2人の新たな歩みに幸福がもたらされますよう、祈っています。

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