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ことばひろい

機関誌より『ことばひろい』を掲載しました。

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第03回(1):『 「ほっといてください…」 』
生活支援センター 副センター長 山舘憲行

2011年7月15日発行(機関誌104号)

「ほっといてください…」

在宅で生活しているMさんは、7人兄妹の長男として生まれ、地元の中学校を卒業後は、畜産業・建設関係などの仕事をこなしてきた。 7年前に脳梗塞で、左半身が不自由になり、自宅に閉じこもる生活が多くなった。 働いているころから好きであったアルコールに依存的になってしまい、 そのころから精神症状も発症するようになり自殺未遂などで入退院を繰り返すようになってきた。

そのような彼との出会いはケア会議を受けての昨年10月。精神科の通院と週2回の入浴支援をすることになった。 入浴支援の初回訪問時に、「死にたい」と絞り出すような声で言うことがあった。一瞬私は何を言われたか分からず、何度か聞き返してしまったが、 よくよく聞いてみると確かに「死にたい」と言っているのである。気が動転してしまってどう答えていいか分からず、会話をごまかし、 機械的に入浴支援に入ってしまった。私の動揺ぶりはMさんに伝わってしまったと思う。

Mさんに「死にたい」という言葉を投げかけられて、何もできなかった自分に悶々とした日が過ぎたが、 その後も入浴の訪問時は「入りません」といい、 通院支援の時は「行きません」と拒否することが殆どであった。ヘルパー泣かせと言えばヘルパー泣かせなMさんなのである。 何回目かの通院の時、先生から「家に閉じこもってばかりいないでKに通ったら?」と勧められることがあった。 何度勧められてもMさんは「行きません」の一点張り…。「じゃ何したいの?」と聞かれると 「家でボーッとして過ごしたいです。ほっといてください」 と答えたのである。ヘルパーの仕事に限らず我々の仕事は本人の了解を得なければ事は進まない。 私たちは「あなたの日中の活動は、こうあるべきだとか、あなたの生活はこうあるべきだとか」というように接してしまうことが 多いのではないだろうか。

私はこの仕事を通して、利用者の姿は 将来の介護される自分の姿だと思うようになってきた。よく「共に生きる」とか言われるが、 考えてみれば誰とも関わらず一人で生きていける訳でもない。人は皆誰かの世話になって生きていかなければならないのである。 そのような当たり前のことをMさんは教えてくれているように思う。

相変わらず訪問時には支援を拒否するMさんであるが、 「心配でほっといて帰れないんですよ」というと、頑固一徹のMさんは折れてしまうことが多く、 「ありがとう」という表情をしてくれるのである。そのようなMさんの優しさというか人間性には感心させられるのである。

初回の訪問の時のように「死にたい」ということは言わなくなった。今は「もっと強くこすってけろ」とか「〜してけろ」ということが多くなった。 これからもMさんの満足気な顔が一つでも多くみられるようにお手伝いしていきたいと思っている。将来の自分の姿を重ねながら…。

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