機関誌より『ことばひろい』を掲載しました。
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第06回:『 「"優しさ"の意味」 』
三愛学舎養護学校 澤谷常清
- 「"優しさ"の意味」
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「これからクリスマス会を始めます」
司会者の佐々木君が、勢いよく開会を告げた。 それぞれの学年から歌あり、劇あり、ダンスもあった。 放課後の練習の成果が十二分に発揮されていた。
いよいよ、保護者による出し物がスタートした。 各学年から一芸ずつ発表された。 職員も引っ張り出され、歓喜に満ちた演技であった。
「今年で最後のクリスマス会ね。思いっきりやりましょうよ」 と語る卒業生のお母さんがいた。
「何もできないと思っていた娘が一生懸命やっているから、負けられないな」というお父さんがいた。
思い思いに仮装し、めいいっぱいの演技が繰り広げられた。 普段は見ることが出来ない親の演技を見て、生徒たちはもろ手をあげて喜んでいた。 カメラのファインダーを通して、歓喜の様子が目に映った。 涙がこぼれてきた。
「オギャー」と生まれた我が子を見たとき、息が詰まりそうなくらいショックだったと語る、ダウン症の子供を持つお母さんがいた。
自閉症の我が子がいつ突然に飛び出すか心配で、街場には連れていけなかったと語るお母さんもいた。
ファインダーの奥に、どんなつらさにも弱音を吐かない顔があった。 悲しみに耐えた顔があった。 それは言葉では言い表せない「喜び」として目に映った。
潔く、前へ前へと進む背景には、言葉では語れないほどの「悲しみ」があり、深い「憂い」があることを知った。
隣人に優しくできる人は、「苦しみ」や「悲しみ」をたくさん知っている人である。 そして人を「憂える(気づかう)」気持ちを持っている人である。 「優しさ」という言葉が、「人」のつくりに「憂」がつくことの意味がわかった。