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ことばひろい

機関誌より『ことばひろい』を掲載しました。

■ 第2期







■ 第1期


第03回:『 「ぼくのお父さん、星になったよ!」 』
ヒソプ工房 阿部孝司

「ぼくのお父さん、星になったよ!」

ヒロ君(仮名)が我が家にやって来たのは十一月下旬でした。 お父さんが重い病気で入院され、お母さんがその付き添いのためにショートステイを希望されたのです。

受け入れが長期に渡ることと、今後の事態によっては、ヒロ君の精神的な支えがケアの中心になることが予想されたため、 我が家でホームステイのような生活スタイルをとって、時々自宅に帰るという生活をしていくことになりました。

我が家は六人家族です。 五才の長男、三才の次男、一才の長女、そして妻と母親。 その家族に大きなお兄さんがやってきました。 子どもたちはすぐにヒロ君を受け入れて「ヒロ兄ちゃん」と慕っています。

ヒロ君は、子どもたちと一緒の騒々しい生活に当初は戸惑いもありましたが、徐々に慣れていきました。 幸いなことに、ヒロ君は私の妻を慕ってくれています。 彼は無類の褒め上手で、私でも言ったことのない甘い言葉をプレゼントします。 「今日の料理は最高!」「その服とっても素敵だよ!」「笑顔が可愛いね!」etc…。

それを聞いた長男は大変です。 なんと、我が家で一番の妻への甘えん坊に、突然手ごわいライバルが出現したのですから。 それから我が家には妻への称辞の言葉が飛び交い、絵を描いてのプレゼント攻撃、ラブレターの嵐と、 今だかつてこれほどもてたことのない妻は、満更でもないようです…といった楽しい生活となりました。

そんな生活を一カ月余り過ごしていた一月に、ヒロ君のお母さんからお父さんが天国に召されたとの電話がありました。 ヒロ君に荷物をまとめて車に乗るように話すと、ヒロ君はようやくホームステイが終わり、家に帰れることに喜びを感じながらも、 何か事態がいつもとは違うことも感じているようでした。

ヒロ君のお父さんが眠っている家に向かう車の中で、私はヒロ君に話すことを決意し、言葉を切り出しました。 「ヒロ君、あのね…お父さん病気を治そうと頑張って入院してたよね。お父さん頑張ったんだけど…」 最後まで言い切らないうちにヒロ君は事態を悟り、必死で口を押さえて号泣なりました。 しばらくして、「お父さんは星になるの…?」。 ヒロ君は、人は天国に召されたら星になると固く信じているのです。 「そうだね」としか返事ができませんでした。

現在、ヒロ君はヒソプ工房に通い働いています。 毎日家を出るとき、帰った時に、お父さんの写真に向かって「いってきます!」「ただいま!」と挨拶しているそうです。

そして、夕方に光る一番星をみつけて「僕のお父さん星になったよ!いつも僕を見ているの」と話してくれます。

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