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ことばひろい

機関誌より『ことばひろい』を掲載しました。

■ 第2期





■ 第1期


第01回:『 「今日は、上?下?どっち?」「あっちでしょ!」 』
小さき群の里 藤村正治

「今日は、上?下?どっち?」「あっちでしょ!」

西岳の裾野にある小さき群の里の「あゆみ」に住む政二さんは、「ひつじ工房アドナイ・エレ」に所属し、羊毛加工を中心とした作業をしています。

十数年も同じことをやっている本人には、別の興味や関心もあります。 そこで、他の分野の仕事も…と、五年前からヒソプ工房奥中山分場や奥中山地域作業所で実習をはじめたのです。

自動車部品のゴム材バリ取りやゴーフル菓子の仕事ですが、いつもとは違った緊張感をもって臨んでいます。 午後からの実習なのに、朝から「今日は、上? 下? どっち?」と聞きます。ひつじ工房のことを「上」といい、街にある実習先のことを「下」といい、 どうやら「下」を心待ちにしているようなのです。

今年四月、アドナイ・エレは、みことばせんべいの「マナ」と共に授産施設舎ロームに併設されて、街の中にリニューアルオープンしました。 そこに通う政二さんからは、「今日は、上? 下? どっち?」という会話はなくなり、「あっちでしょう!」と得意げに話しています。

政二さんは、昭和四十八年、奥中山学園の第一期生として入園し、三愛学舎養護学校、小さき群の里とカナンの園の歴史と共に歩んできた一人です。 里の食品加工科時代に、カナン牧場パン工場の開設に携わった一人でもあります。

同期のメンバーが牧場に就労するなか、本人は体調が思わしくなく無念にも就労を断念した経緯がありました。 体調は徐々に元の勢いを取り戻し、この体調が十数年前のあの頃だったら、今頃グループホームで暮らしていたかも…と思うところもあります。

「下」になじんできた政二さんは張り切っています。声をかけられて動いていた人から、自分で動く人になってきました。 昼食で使ったお箸洗いも面倒がらずにやり、明日の準備も万端です。 また、地元の喫茶店「北の風」で開かれる絵画教室「シバ塾」にも週一回通っており、自分の色や味を思いのままに表現し、岩手きららアート展でも入賞したりもしています。

長く近くでかかわってきた者として、政二さんはグループホームでの生活を望んでいるように思います。 カナンの園に来て二十八年目。このままの生活に留まる理由はないのです。

この四月、グループホーム利用の条件から「就労」の項目が外されました。 どの人にとっても地域生活への扉は開かれつつあります。 今年度、里で実現を目指している「生活ホーム」は、地域生活への橋渡しとなる拠点<小さな駅>ですが、まさにこれからが始まります。

ここ数年前から利用者の親御さんが、我が子の将来への不安を抱きながら病で亡くなることが続いています。 「生活ホーム」では、施設よりは少しでも家庭に近く、安心感の深い暮らしを創りたいと願っています。 政二さんをはじめ、利用者の願いを実現すべく、私も明日に繋がる挑戦をせねばと気持ちを新たにしています。

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